広島スカイレール及び広島市路面電車(LRT)現地視察

視察報告 作成日令和元年8月10日(土)

①視察日時:2019年8月8(木)〜9日(金)の2日間

②視察場所:スカイレール株式会社様、広島電鉄株式会社様

③視察目的について
堺市において明治の時代から東西鉄軌道の必要性が言われている。近年の堺において、木原市長時代に臨海部と都心部とを結び、堺市の都心部を東西に横断することによって、堺市内を南北に走る既存の南海電気鉄道南海本線、阪堺電気軌道阪堺線、南海電気鉄道高野線の3鉄軌道路線の結節を図る「LRT新線建設計画」が進められた。しかし、この計画は政治的利用の結果、竹山前市長により計画破棄となった。その後、東西交通について代替え案も示されないまま10年経過し、現在に至っている。東西交通の必要性については以前から様々な方々から指摘されている。大阪中心部から南北方向に交通網が整備され、それに流されるように都市開発も進んだ結果、堺の中心部の求心力が薄れていったとも言われている。東西交通について堺市行政は3つの案、LRT、BRT、バスの高度化において検討はしたもののそれだけで終始している現状である。
また人口減少や高齢化が進む時代背景において、都市交通の整備を充実させコンパクトシティを目指す自治体も散見される。これは高齢者の外出機会を増やし健康寿命の延伸の効果も二次的にあると一説では考えられている。加えて、堺市では百舌古市古墳群の世界遺産登録、大浜北町の開発、堺浜・Jグリーン方面の次なる一手を鑑みて、各種都市交通の検討は今後の堺市にとって必要であると考える。
現在の都市交通の動向を見れば海外の都市においても様々な都市交通が整備されている。中でもロープウェイ交通の導入も行われており、ロンドンのエミレーツ・エア・ラインはテムズ川を渡る新たな都市交通として整備され周辺地域の持続的な再生活動にも寄与しているとされている。


ロンドンのロープウェイ交通


コロンビア、メデジン
メトロケーブル

国内では博多、東京でもロープウェイ交通が検討されている。車道の上部を走る交通網の利点は運行に対して道路事情の影響がないことや、建設コストなどの費用面での利点がある。技術的には決して新しい技術ではないが応用的に運用することで新たな可能性があるとも考えられ、堺市での可能性の一つとして、これまで検討をしてきた。そのような観点から今回の視察では、ロープウェイ技術とモノレールが合わさったような交通手段である「スカイレール」を実際に視察し、運行を行うスカイレール株式会社様に訪問させて頂いた。
また、2日目は広島市さんのご協力のもと路面電車(LRT)を運行する広島電鉄様にご訪問させて頂き、路面電車が果たす都市交通の役割や新路線などの開発、他交通手段との結節効果などについてお話をお伺いした。

−④視察概要
初日、広島市瀬野駅に併設されている「みどり口駅」内、スカイレールサービス株式会社を訪問させて頂いた。ご対応は同社中谷代表取締役様にして頂いた。同社設立の経緯やスカイレールシステムそのものについてお話し頂いた。
まず、このスカイレールという交通は平成元年に着工した新たな住宅団地開発に伴い、その住宅団地内の交通手段として整備されている。この住宅団地は「スカイレールタウン・みどり坂」という名称で計画戸数2563戸、計画人口10,000人の規模で開発されている。その住宅団地からJR瀬野駅へ向かう公共交通としてスカイレールが導入されたとのこと。この住宅団地において瀬野駅に向かうにあたり最長2km、高低差190mという条件で徒歩では厳しいため公共交通が必要であった。この高低差と距離を鑑み最適な交通手段としてスカイレールが開発されたとのこと。ロープウェイは高低差には強みがあるが、直線でしか布設できない弱点がある。そこにレール付きロープウェイとも言えるスカイレールは高低差だけでなくカーブ軌道にも対応できるものであり、この団地開発に合わせてスカイレールシステムが誕生した。


(始発駅「みどり口駅」みどり口駅から住宅団地へレールが伸びている。)


(スカイレールの車体定員25人時速は約18kmにて運行されている。)


(高低差はかなりつけることができる。また、支柱のみでレール整備がなされレール内ケーブルにて運行しており、電線などはない。)

このスカイレールは始発駅、中間駅、終点駅の3駅にて構成され、全長1300mとなっている。各駅に出入りする直前に車体はケーブルを離し、駅構内ではリニア駆動にて稼働する。また始終点駅でUターンする際にはギア駆動にて進むシステムとなっている。始終点間におけるケーブルロープのループの兼ね合いで路線延長は最大2km程度と考えられている。しかし、ケーブルロープのループを駅で結束して次のループへと渡していけばさらなる路線延長も技術的には可能であるとのこと。

ランニングコストは年間人件費や保守費用なども合わせて約2億円。内、運賃収入は約6千万円とのこと。足らずは開発企業である積水グループが補填しているようだ。ちなみに運賃は区間内一律170円となっている。土地関連は広島市が所有しているため固定資産税はかかっていない。初期投資は駅、車両、レールなど全て含めて約62億円とのこと。他に流用されることのないシステムであったためスカイレール開発費も盛り込まれているものと思われる。スカイレールシステムの開発は三菱重工が行なっている。


(駅構内にて乗車模様)


(管制室風景)

今回の視察にて実感したのはスカイレールは管制室も少人数で運営されており、運転手も不要な点などもあり非常にコンパクトな交通手段であると感じた。ただ、運営されているのは日本でこの住宅団地のみであるため部品供給など汎用性が低いという問題点もある。しかし、新たな都市交通の検討において用地確保や既存道路との関係性において一定の可能性は感じる。通常の天候、すなわち平時の強風において運行休止となることもなかったとのこと。堺市において南海堺駅からベイエリアへ新たな交通が検討される場合、一つの候補としてありえるのではないかと考える。

2日目は広島市路面電車及びLRT関連視察のため広島電鉄株式会社へ訪問した。今回の視察にあたり、広島市道路交通局 都市交通部の石飛課長にご尽力頂いた。広島電鉄本社にて電車事業本部の平本次長をはじめとして皆様に様々なご説明を頂いた。
まず広島市の石飛課長から広島市の公共交通概要についてレクチャー頂く。広島市には特殊な地質事情もあり地下鉄がない。その代わりとして路面電車が活躍している。広島市市民の皆さんの路面電車利用率は高い。バス、路面電車などの交通網を各地理的要因に合わせて設定、強化を行ってきている。そんな中さらなる利便性の向上を図るため路面電車のLRT化も進めている。それらに加えて交通結節点の整備を進めている。路面電車やバスから鉄道へ乗り換えされる交通結束点の利便性を上げるため、乗り換え距離を短くする工事を行なっている。横川駅における乗り継ぎ改善においては路面電車からの乗り換え距離が140mも短縮された。総事業費は29億6千万円。利用者の増加、渋滞解消などによる年間便益は約7億円とのこと。
広島市の今後の展望として、広島駅から紙屋町までを楕円形に循環する都市作りを計画している。そして新たに路面電車の循環ルートを整備し広島駅南口広場を再整備する。LRTが広島駅に向かって高架化され駅構内へ侵入していく計画である。これにより広島駅からすぐにLRTに乗車し市街地各地へと人の流れを繋げていくこととなる。令和7年春に開業を目指すとのこと。

続いて広島電鉄様よりレクチャーを受ける。主に車両関連においてであるが、当初LRTを導入するにあたりドイツから車両を購入していたが、メンテナンスなどの課題もあり、「U3プロジェクト」として広島電鉄その他企業とともに国産化を成し遂げている。広島電鉄では自社にて車両メンテナンスを行える体制もあるため、成し得たことである。
広島電鉄様でも交通結束点の整備が進められている。「歩かせない・濡らさない・待たさない」の3か条を信念として進められている。これによる利用者増加効果も生み出している。加えて駅舎や線路、ICカード乗車券システムの導入、ロケーションシステムの高度化など、様々な挑戦がなされている。また、既存路線の見直し計画もされている。有識者、経済人、NPOなどの方々からなる検討委員会を作り、新規ルートを設定。現在、より詳細な検討が進められている。


(レクチャー風景・広島電鉄本社)


(連結されたLRT)


(利用者も多く、簡易支払機も出ていた)


(前方風景)

一定、レクチャーを受け車両メンテナンス工場なども視察させて頂いた。外注化を行わず自社にて車両メンテナンスを行う方針で運営されている。またそれぞれのセクションでの技術の継承も行う取り組みも進められており、公共交通を担う企業としての気概を感じた。

−⑤まとめ
この視察においてやはり交通結節点を強化していくことの重要性を強く実感した。また、まちづくりと並行して既存路線の改善にも果敢に取り組むことが次世代に向けて必要であると感じる。また、スカイレールのように新しい技術ではないが、都市型ロープウェイのように取り入れ方によって新たな可能性が広がるものと考える。広島市内でのLRTはチョイ乗りチョイ降りがスムーズであり、主要駅から広範囲に循環することで利便性の高い都市交通網となっている。広島電鉄様ではバス路線が赤字であるが不動産開発などで収益を上げているとのこと。交通網を担い、利便性の高い街にしていくことで収益も上げていく事が公共交通企業のあるべき姿であると考える。今後の堺市において、中心市街地など街づくりのビジョンをもって東西交通を整備し、いかに利便性の高い循環型交通網を作っていけるかが重要である。今後の施策提案などにこの視察を活かしていきたい。